国東半島芸術祭
2014年。国東半島を舞台に地域資源とアートが融合する、歩いて旅する大規模な芸術祭が開かれました。
国東半島の土地の力や歴史・文化が出会うことで、この場所でしか鑑賞・体験することのできない作品が数多く生み出されました。国東半島芸術祭としては開催を終えていますが、「サイトスペシフィックプロジェクト」で制作された作品は今も残っており鑑賞することができます。
千燈プロジェクト アントニー・ゴームリー「ANOTHER TIME XX」
アントニー・ゴームリー氏は1970年代にインドで仏教を学んで以来、自身をかたどった鉄製の人体像を作り続けています。ここ千燈地区でも、僧の修行の場でもある切り立った岩場に鉄製の人体像を設置しました。東方に向かって佇む人体像の視線の先には、海まで見晴らす絶景が広がっています。鉄製の像は、風雨にさらされ、かつて製鉄が盛んだったこの土地に、やがては砂鉄となって帰っていくことでしょう。約700kgの鉄像を岩場に設置することは大変困難でしたが、地元の農家や千燈寺住職をはじめ、多くの地域の方々の協力により設置が実現しました。
岐部プロジェクト 川俣正「説教壇」
岐部プロジェクト 川俣正「説教壇」
国東半島内の移動さえ困難だった16世紀、岐部地区からローマに到達し、司祭の叙階を受けた青年がいました。いまもここにはその青年、ペトロ・カスイ岐部にゆかりの教会があります。ペトロ岐部の数奇な生涯に感銘を受けた川俣氏は、この教会の裏にある丘に木製の道と、人が語らうための場を創りました。これからたくさんの人がこの道の上を歩き、この場所にさまざまな想いや記憶が積み重なっていくことでしょう。こうして長い時間の中で道がすり減り、森と一体化していくことは、この作品にとって重要なプロセスであると川俣氏は語っています。
成仏プロジェクト 宮島達男「Hundred Life Houses」
宮島達男火砕流の影響で多くの岩場が形成されている国東半島。古来、人々はその岩肌に数多くの仏の姿を刻み込んできました。日本の石仏磨崖仏の7割以上が国東半島に集中しているという説もあります。宮島氏は、成仏地区の遺跡に面した岩肌に、100個のカウンターガジェットを取り付けました。各々の速度で数字を刻み、0の瞬間に暗転するカウンターが表現するのは、命とその輪廻です。この作品は、地域の方々、20代の日本の若者、中国と韓国の留学生、計100名が参加したワークショップで完成した、現代の磨崖仏のも言える作品です。
真玉プロジェクト チームラボ
「花と人、コントロールできないけれども共に生きる」
真玉海岸は大分県で唯一、水平線に沈む夕陽を眺めることができる場所です。 その海岸沿いにある元縫製工場には、無数の花々が咲いては枯れるサイクルを繰り返す、デジタルインスタレーション作品が設置されています。この作品は、その場にいる鑑賞者の動きや距離によって変化し、同じ光景は二度と見ることができません。 国東半島には多種多様な花が咲きますが、その多くは人が植えたものです。今日の心地よい自然があるのは、このように人間が自分たちの生活にあわせて整備したからです。しかし、人は自然を完全にコントロールすることはできません。この作品は、このような人と自然との関係性を表現しています。
香々地プロジェクト オノ・ヨーコ
「見えないベンチ」「念願の木」
岬の13箇所に国東石製のベンチが設置されています。ベンチに座り、そのそばに埋め込まれた石碑のメッセージを読むと、目の前の景色が違って見えてきます。 「念願の木」は自分の力で未来を作ることを信じるための木です。短冊に願い事を書いて枝に吊るすと、アイスランドにある「イマジン・ピース・タワー」に納められ、空へと届けられます。
香々地プロジェクト チェ・ジョンファ「色色色」
チェ・ジョンファは段々畑の一番上にピラミッド型の花壇を設置しました。この岬に花が咲き乱れる季節になると、花壇は大地と一体になり、一つの彫刻作品が完成します。この作品の頂上には展望台があり、岬全体を見渡すことができます。
並石プロジェクト 勅使川原三郎
「氷の水滴」「月の木」
並石ダムは、かつて鬼が住んでいたという言い伝えのある、大きな横穴の開いた岩山のふもとにあります。勅使川原氏がはじめにこの地を訪れたのは、ちょうど満月の日でした。その月明かりの下でダムの周りを歩いたときに、昼間は気に留めなかったささいな音や風にも気づいたと言います。このような感覚を呼び起こすための最低限の仕掛けとして、勅使川原氏はここにガラスの塔を作りました。塔は光の加減や時間帯や角度などによって、さまざまな表情を見せます。湖畔を一周するのに約40分間かかるので、散策しながら変化し続ける作品と風景をお楽しみください。